私が持ち役にしてきた、「セビリアの理髪師」は若い時。声に強さスピントが加わった中年以降は「カルメン」。
セビリア(セビージャ)の街を舞台にしたオペラだ。
今や大都会のこの街から、昔の面影は殆どない。スペイン広場のアズレージョや旧市街の細い路地なら、少しだけそんな匂いがする気もする程度だ。
気持ちはグラナダに早く行こうと、せっかちに向いている。
今回の旅の目的は、何百回とステージで歌ってきた「グラナダ」に、新たな霊感を与えて欲しいと云う、私の内なる渇望なのだ。
以外に人影少ない静かなアランブラ宮殿を巡り、随所に仕掛けられた水の流れに耳を澄ませた。
歌に出てくる柘榴の花ではなく、この季節は薄紅色のアーモンドの花が谷を埋めている。頬にあたる少し冷たい風が、時を経ていくことを教えてくれるかのようだ。
これから、どれ位の時間、現役の歌い手として私に残されているのか、知り得ないが、湧いてくる情感は、まだ涸れてないように感じる。
「GRANDA」今年も歌うことが出来そうだ。