子供の頃や若い時分に嫌いだったものが、大人や或る年齢に達すると、嗜好が変化して、好物になる食べ物が多くあるようだ。
私にとって、鱈の白子もそのひとつで、この季節はどうしても食べたくなる。ポン酢でいただくのが一般的だが、どうもわたしは酸っぱい物が苦手だ。私の亡くなった父は酢の物が大好物で、海鼠や牡蠣が食膳に頻繁に出た。
「おまえはまだ子供だなあ」と冷やかされるので、一気に飲み込んで噎せたりした苦痛が忘れられない。やがてある程度の年齢に達し、何歳かはあえてはっきりさせないが、独活の酢味噌和えなどを好むようになって来た。
しかし鱈の白子(雲子)は柚子釜に限ると思っていた。
だがこの所、中野の野方に数年前に出来た蕎麦屋、「かわむら」で出される日高産真鱈の白子の天ぷらには、すっかり参ってしまっている。本当に旨い。
当然、二八の細打ちと粗引きの田舎も丁寧な心配りだ。
さて、この歳で嗜好がやっと大人になったとは、とても恥ずかしくて云えないが、この白子の天ぷらの味は、子供の頃や若い時分では判らなかったことは確かだろう。