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五月の風に吹かれて

 五月の風に吹かれて、三国峠を車で越えた。今年に入って、ほぼ月二回のくらいのペースで群馬と新潟の県境を往復している。
 スキーのシーズンも終わり、この季節の楽しみは山菜である。
帰りの車の荷室には、自分で採ったタラの芽やこしあぶら、買い求めた木の芽・山独活等がダンボール箱に山盛りになっている。
 往きの夕方、峠のトンネルにさしかかる手前で、ラヴェルのボレロがちょうど終わるようにと、猿ヶ京を過ぎた辺りからCDをセットするのが習慣になっている。アンセルメ・クリュイタンス・ジョルダン・デュトワ・小沢等、その時の気分でオーケストラを楽しんでいる。
 
 三国にかぎらず、峠にはいつも風が吹き抜けている。そして、そのことをいつも感じている。
若い時から続けてきた山登りで、あえいで登り詰めた峠では、いつも風が身体を透明にさせてくれるような、気分を味あわせてくれたように思う。
 風越とか風張なんて名前の峠もあり、営みが懐かしく、恋しく、また記憶に浮かび上がる何人かを思い、そして、故人になlったひとが鮮明になってしまう。

 さて、先日私が旅してきた、初夏、緑濃い朝鮮半島。かつては禿山ばかりと揶揄されていたが、今では本当に連なる森を成長させていた。
 ちょうど田植えを迎えた農村も、機械化が進み、この30年余りのうちに様変わりしたのだと感じさせてくれた。誤解を恐れずに極端なことを言うのだが、かつて本や写真で得た、七十年代の電気の通わない丸いわら屋根の集落、近代まで律令を引き摺っていたかのような、生産性の低い農村。当然のことだが、そんな私の無知な認識と時代錯誤も、笑顔で農作業をする人々の前で、往き摺りのかすめる虫のようにちっぽけだ。
 
 六十数年前、私の母は、父の待つ満州・奉天に向かい、希望と不安の花嫁として、この半島を列車に揺られて行った。
 そして終戦の次の年、六歳と三歳になる私の姉たちの手を握り締め、臨月の身にリュックを背負い、無蓋の貨物車の中で、釜山に向け幾夜も過ごしたのだ。
 しかし母は私に、この辛苦の旅を語ることは殆ど無かった。
 
 点々と遠望する薄紫の藤の花房、芳香を放つ満開のアカシヤの白い花。
その五月の風の中に、突然立ち上がるように、私の古い記憶が若かった母の姿を映し出した。
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 村はずれの大きな楡の木の古木がつくる、歴史を語りかけるような木陰と葉のざわめき。
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 六百年前、明国より持ち帰った変種の八重つつじが咲く、かつての両班の歴史を伝える君子村に辿り着き、木目の浮き立つ縁側の柱に凭れながら、又しても、私はとりとめもない思いばかりを繰り返していた。
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by cantare-so | 2009-05-27 19:31

十年振りのブリュッセル、そしてルーベンス

 新年早々、十年振りのブリュッセルに出かけた。
もともとフランスの地方都市と言った印象が強い街だが、通貨もユーロに変わり、ますますその個性が薄れてきたように感じた。
 グラン・プラスに屯する客引きも、中東やヨーロッパ系ではない人が多くなり、雰囲気も安手の観光地のようだ。
イロ・サクレの食物横丁は、さらにしつこい客引きで閉口した。
 美味しいベルギー・チョコレートが日本でも身近に溢れているように、こちら本家の本元でもチョコレート店の出店・支店だらけでコーティングされている。
 「小便小僧マヌカン・ピス」さらに「小便少女」は相変わらず。ランボーとヴェルレーヌが事件を起こしたホテルも健在だが、少し周りが騒がしくなった。
 すっかり高層ビルが立ち、様変わりした北駅近くのホテルに三泊したが、こちらは中国系の経営で何とも不思議な雰囲気。
 ヨーロッパでも屈指の美しいオペラ・ハウス「モネ劇場」の周りも、何だか品が無くなった。チケットオフィスのあった場所が、BARに改装されていてこれまたびっくり、シーズンの演目も活気と魅力に乏しい。
 しかしこう言い立てても、けっして居心地が悪いわけではなく、以前食事をした証券取引所横のファルスタッフは相変わらずで、ドーバー・ソールや鴨のオレンジソースはまさに絶品。
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 街頭で買うワッフルも甘みが勝ってはいるが、やはり美味しい。「嫌いじゃないし、悪くないね」と気取った台詞を吐いてしまう。
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 さて汽車で一時間圏内には、かつてローデンバックの小説で読んだ「死都ブリュージュ」、北のヴェニスの呼び名もある、運河と広場の不思議な魅力を秘めた街がある。今回も冬の雨にそぼ濡れたが、カリヨンと馬車の響きに身を浸すと、古いヨーロッパの時間が流れていた。
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 何と言っても、アントワープが40分余りで行けるのも嬉しい地の利だ。
玄関口の駅舎は優雅で、私の好きな風景の一つだが、これまた10年間のブランクでびっくり、到着したプラットホームが3層構造になり、エスカレーターが交差して地上に。まだ工事途中で変わるかもしれないが、雰囲気の良かったBARも消滅。雑然とした印象に、「アントワープよ、お前もか」
 先ずは、ルーヴェンスのアトリエを目指し歩き出す。チケット・オフィスが道路に出来ていてこれも様変わり。
開館前に着いてしまったので、その先にあるCafeで時間を潰したが、これはゴッホの夜のカフェをディザインした内装。実は今回の旅は、アムステルダムのゴッホ美術館から始まっているので、思わず同行の妻と顔を見合わせにっこり。
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 パリ近郊の、オーベール・シュール・オワーズのゴッホ兄弟の墓を訪ねてから、15年の間にはアルルまで出かけた思い出が甦ってきた。
 
 さて、ルーベンスの工房と中庭、前回見ることが出来なかった「自画像」を巡り、妻の楽しみにしていたノートル・ダム寺院へ。「フランダースの犬」の話はあまりに悲しくて、ましてやアニメはとても見る気にはなれないのだが、ここのルーベンス絵画「十字架昇架」「十字架降架」は劇的で素晴らしく、その格調の高さには圧倒される。
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 寺院を一歩出ると、あまりの人出で何事が起きたのかと思っていると、どうやら今日はアントワープ(アントウェルペン)の日らしい。裏手の市庁広場ではビールやフライド・ポテトが無料の大盤振る舞い。
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  勿論私たちもその恩恵に、ちゃっかり浴し、街中散策と昼食後には、妻に頼んでA(アントワープ市)印のフリースの帽子まで無料で手にすることが出来た。
 こんな芸当は気弱な私ではとても出来ない。
 「女は強し、されど妻はさらに強し!」
 
 ちなみに、この日の昼食は「手長えびのグリル」「ムール貝のワイン蒸し、ムール・マリニエール」
そして、白ワインはガスコーニュのタリケ。
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by cantare-so | 2009-05-03 17:30