暑い日が続くと、無性に葛切りが食べたくなる。いや、それどころか四季を通じて何時でもそうだ。それも京都の祇園にある店ので無ければ、満足出来ない。何故東京にこの店が無いのか、恨めしく思うことしばしばだ。
二十歳の時、初めて食べて以来、この店の葛切りに恋をした。以来、大袈裟で気恥ずかしいけれど、ひとすじの思いは変わらない。
今では改築して一階に移ったが、かつては木造の少し薄暗い二階に上がり注文をした。独特の二段の器で、上の段には蜜が入っていて、白蜜と黒蜜を選べるが、私は断然黒蜜派だ。下の段には氷水で冷やしてある、少し平たい葛切りが涼やかにたゆたっている。
食べ終わったあとは、氷を蜜の入った器に浮かべ、何度も口に運び入れたり出したりするのも、子どもっぽくひそかな楽しみだ。
他にこの店には季節限定の竹筒に入った高価な水羊羹もあり、心惑い、さて何本買って帰ろうかと、何とも苦しい決断と躊躇を迫られる。