サンクト・ペテルブルグでコンサート終え、その後ブタペストでは、ゲッレールト温泉で旅半ばの疲れを癒した。今や社会主義時代の面影も無く、さらにEU参加で形ばかりの、ハンガリーとオーストリアの国境を、快晴の秋空の下、ウィーンに辿り着いた。
五月からかぞえて、四ヶ月ぶりのウィーン。 さて、この町に来て数日の短い滞在中でも、かならず一度は口にするのが、グリースノッケルズッペだ。直訳風で言うと、粗引き麦の小さい団子のスープ。あっさりとしたコンソメ味で、胃に優しいところが素うどん感覚で、私の性に合っていて好きだ。スーパーに行けば、クノールのインスタントもあるが、やっぱりうどんと同じでその日の手打ち?と出汁が決め手になる。 何処のレストランで食べても、ソコソコとはいつも感じることだが、今回は格別美味しい味の出会いとなった。 バッハウ渓谷の今年シーズン最後になった舟下り、やや風の寒さに震えながら途中で立ち寄った、ホテル・シュロスデュルンシュタインで出されたグリースノッケルズッペ。ドナウ川の眺望の素晴らしさに譲ることなく、この日、この時のスープの味は記憶に残る、確かな一皿だった。 #
by cantare-so
| 2005-09-29 11:31
| フレンチ
蝉の鳴き声を聞いて、急に思い出した。もう二十年以上も前に、四国の今治の寿司屋で食べた蝉海老料理を。私は若い時から今日まで、演奏旅行で日本各地を訪ねてきた。
その土地の名物、美味しいもの等を味わってきた喜びは、自分にとってかけがえのない、思い出の一頁になっている。 蝉海老はせみえび科の海老で、大きさは伊勢海老クラスにも成長する、まぼろしの海老と言われていて、なかなかお目にかかれない。刺身に、さらに塩茹で、勿論味噌仕立ての汁物も最高だ。 その当時、今治に行くと決まって泊まったホテルも忘れられない。とても高級とは言えない外観だが、最上階に一つしかない物置のような屋根裏部屋。これがとても居心地が良かった。プッチーニのオペラ「ラ・ボエーム」の一幕、四幕の舞台セット、まるで古いパリのアパルトマンの屋根裏部屋の様だった。 もし、そのホテルが今でもまだ残っているなら、また近くの寿司屋で蝉海老に出会ってみたい。 #
by cantare-so
| 2005-08-12 11:32
| 和食
暑い日が続くと、無性に葛切りが食べたくなる。いや、それどころか四季を通じて何時でもそうだ。それも京都の祇園にある店ので無ければ、満足出来ない。何故東京にこの店が無いのか、恨めしく思うことしばしばだ。
二十歳の時、初めて食べて以来、この店の葛切りに恋をした。以来、大袈裟で気恥ずかしいけれど、ひとすじの思いは変わらない。 今では改築して一階に移ったが、かつては木造の少し薄暗い二階に上がり注文をした。独特の二段の器で、上の段には蜜が入っていて、白蜜と黒蜜を選べるが、私は断然黒蜜派だ。下の段には氷水で冷やしてある、少し平たい葛切りが涼やかにたゆたっている。 食べ終わったあとは、氷を蜜の入った器に浮かべ、何度も口に運び入れたり出したりするのも、子どもっぽくひそかな楽しみだ。 他にこの店には季節限定の竹筒に入った高価な水羊羹もあり、心惑い、さて何本買って帰ろうかと、何とも苦しい決断と躊躇を迫られる。 #
by cantare-so
| 2005-06-29 11:33
| 和食
マドリッドのプラド美術館で、ゴヤ、ベラスケス、ムリーリョ、エルグレコなど目白押しの絵画のご馳走にあやかった後、夜は王立歌劇場で「カルメン」を鑑賞出来る何て機会は、めったに訪れない事。
ならばオペラハウスのすぐ裏にあるホテル・オペラの部屋で休み、夕方には体力をつけて、オペラ四幕の殺しの二重唱までしっかり見届けなければ。 こんな時は自分がホセを歌う時と同じように、横丁の肉専門店レストランに飛び込み、肉、それも最低300g以上のリブ・ステーキに岩塩と胡椒だけを振り、赤ワインと一緒にポーコ・エーチョ(ミディアムレア)で口の中に無理矢理つめこんで座席に向かう。 結婚後、妻も私も、我が家では、コンサートの本番前には、ぶ厚いステーキを食べるのが習慣になっている。オペラは演奏するのも、鑑賞するのも体力がとても必要。こんな調子でヨーロッパ各都市の牛肉ステーキの思い出は、オペラの演目と、そして歌手達の良し悪しの声に繋がっている。 さて帰国して、自宅で肉を焼くのは。勿論男の仕事と心得ているが、生山葵、エシャロットを摩り下ろしたバターソース、最後に京都の黒山椒。これはもう決まりだ! さっきからうろうろしてどのワインを開けようかと、私は迷いに迷っている。 本日のオペラの演目は、私の鼻歌程度にして、気楽に杯を飲み干そうか。 #
by cantare-so
| 2005-06-13 11:34
| フレンチ
春は竹の子、秋は茸と季節限定の偏食の度合いを、私は年を追うごとに深めているようだ。
もう随分昔の話、6月の終わりに、月山にスキーに出かけた。この季節になり、何と、月山はスキーのシーズンが始まったばかり。まだ小さかった娘を前に抱き、姥沢の斜面を何度も滑り、宿に帰っては山菜汁で腹いっぱいにする数日を過ごした。 さらに帰りに寄った、山菜専門の料理屋で出されたのが、まさに旬の月山筍。すっかりその味の虜に、特に味噌汁と竹の子ご飯、普段あまり食べない娘が、お変わりする始末。 一般には、ねまがり竹とか、細竹と云われているイネ科の竹の子だ。それ以後、このみじかい季節限定を待ちわびて、おおやけには喋れないが、ある雪の深い山の、竹やぶに入り込み、出たばかりのねまがり竹を、手に何本も持ち、皮をむきその場で生のままぼりぼり、次から次とむさぼる、浅ましい姿をさらすはめに。お腹をこわしても良いから、本望だからと座り込んでいる、自分に笑いがこみあげてくる。 熊と間違えられるのでは、内心ひやひやしても、その味覚には抗えない。 今年も注文しておいた月山筍が届き、丸ごと焼いて皮をはぎ、口にする。焼いたトウモロコシ、硬い白アスパラガス、どれとも違うアクのえぐみや甘みさ、でもまだ満足出来ず食べ足りない、。また秘密の竹やぶから誘惑の手招きがくる。 会津十念味噌、蕗味噌、胡桃味噌、そして塩をつければ、私の中の月山筍病いはどんどん進行してしまう。それにしても、この時季はあまりに短い。 #
by cantare-so
| 2005-05-30 11:35
| 和食
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